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全身小説家とゆきゆきて、神軍 [2009年2月に観た映画]


全身小説家 [DVD]

『全身小説家』
(1994・日本) 2h17
監督・撮影 : 原一男
出演 ; 井上光晴、井上郁子、瀬戸内寂聴、埴谷雄高



早稲田松竹にて2本立て。
どちらかと言うと『ゆきゆきて、神軍』の方が観たかったのですが、こちらも観てみたかったので丁度良かった。



ネタバレあり。




小説家井上光晴氏の最後の数年をフィルムに収める事によって、小説家・井上光晴と人間・井上光晴の虚構と現実に迫ります。

井上氏の作品は全く読んだ事が有りません。井上光晴という作家がいたことも本作で初めて知ったぐらい。
当然作品を読んでから本作を観た方が良いに決まっていますが、そこらへんは相変わらずの不勉強です。

本作を観た限りでは、井上光晴という人物は映画のタイトルであるように正に全身小説家でありました。
と言うか全身で小説家であろうとしたように思えました。

小説を書くだけの小説家ではなく、文学とはなんぞやを熱く語り、酒を飲み交わし、手当たり次第に女性に手を出す。そういったかつての小説家のイメージ。そのイメージ通りであろうとしたような気がします。

井上氏は小説家としてのイメージを守るために自分の過去を偽り、嘘によってイメージを作り上げますが、その嘘は事実を調べればすぐにばれてしまうような嘘。
誰かに被害を与えるような嘘ではないですし、フィクションの小説を書くという事自体が読者を騙す事によって成り立っている部分も有るかと思いますから、小説家であろうとした井上氏にとっては何一つやましい事は無かったのではないかと思えます。
それに本作でもその事について糾弾しようとかいう気は無いのだと思います。「しょうがねぇなぁこの人は。」ぐらいの感じ。

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ゆきゆきて、神軍 [DVD]

『ゆきゆきて、神軍』
(1987・日本) 2h02
監督・撮影 : 原一男
出演 : 奥崎謙三、奥崎シズミ




ネタバレあり。




本作は以前から観たいと思いつつ、レンタル店で手にした事も何回か有りましたが今まで観てきませんでした。
何故なら怖いから。
本作については、とにかく奥崎氏がスゴイ。という事を観る前から刷り込まれており、それがどのようなスゴさなのかは分からぬまま観ましたが、実際観てみたら奥崎氏確かにスゴかった。そしてやっぱり怖かった。



第2次世界大戦。日本劣勢の中、戦地である南方の島ではどのような悲惨な事が起きていたのか。
そのような事実が起きた原因は誰にあり、誰に責任があるのか。
それらを白日の下にさらけ出し、後世に伝えるために当時実際に南方に兵士としていた奥崎氏は行動をしています。



南方の軍内部で起きた兵士射殺事件について調査聞き取りをする奥崎氏をカメラは追います。
後に分かる事ですが、事件の全容は戦地での劣悪な環境がその事件を引き起こしたとも言えます。
しかし関係者は、戦地での悲惨で過酷な出来事を忘れることによってあの戦争を自分の中で消化しようしているようでなかなか証言を得られず真相にたどり着けません。
関係者の方々はきっとその思いで40年近くを過ごし、忘れたとまではいかないまでもようやっと記憶は薄れかけていたのかと想像します。

しかしその人たちの前に奥崎氏が突然目の前に現れ、己の信念にだけ基づきその記憶を無理矢理に、時に力づくでほじくり返そうとします。
その奥崎氏の信念を貫き通そうとする狂気交じりの行動は凄まじいものがあります。

時に(常に?)無茶をする奥崎氏ですが、その奥崎氏の行動の原動力も分かる様な気がしますし、口を閉ざす関係者の気持ちも分かる様な気がします。
要は戦争に全ての原因が有るわけで、戦争という狂気そのものが人の心に何を残し、何を生み出すのか。本作はただ単に奥崎氏がスゴい、怖いというだけではなくてそういった人の心に迫るドキュメンタリーだったと思います。



観る順番として製作年順に本作を先に観た方が良いのかと観る前は思っていましたが、本作を後に観て良かった。
多分先に観ていたらグッタリして『全身小説家』を観る気を失くしていたかも。

しかし2本一緒に観れた事は意味は有ったのかと思います。
嘘と真実をない交ぜにする事によって小説家であろうとした井上光晴氏と、真実のみを追い求める事で己の信念を貫き通そうとするアナーキスト奥崎謙三氏。
人として正反対と言ってもいいような御二方ですが、小説家としてアナーキストとして芯の通った生き方をなされている所は一緒のように思えました。
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テンプラ・ソバ・ニーロ

ぺん獣さん、niceありがとうございました。
by テンプラ・ソバ・ニーロ (2010-12-30 21:34) 

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