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涼しい

「ねえじっちゃん。これが涼しいなの?」

「ああそうじゃ。これが涼しいじゃ」

「これが涼しい…。涼しい! わーいわーい涼しい! 涼しい!」

「40年振りの涼しいか。40年前のあの夏の日を思い出すわい」

「ねえーじっちゃん。寒いってなんだい?」

「おお! 寒い。その言葉を聞くのも久し振りじゃあ。いいかいよく聞くんじ…」



「博士、残念ながら復元はここまでです」

「おおそうかい、構わんよ。あのドロドロに溶けた記録媒体でよくやってくれたねヤマダ君。ご苦労さん」

「いえいえ力不足ですいません。いやあしかし驚きました。日付は2058年という事ですから今から160年前ですか。まさか耐熱スーツ無しで屋外活動してるなんて。我々の世代はそんなこと教わってきてないですから」

「…」

「それに涼しいってなんなんでしょう。子供はやけにはしゃいでましたけど。あと、寒い。なんか涼しいよりも凄そうですね」

「…」

「…博士、その手に持ってるのなんですか?」

「ああこれかい。これはコルトパイソンというんだよ。かなりの骨董品だけどねえ。どうだい黒光りしてカッコいいだろう」

「いや、それって拳銃ですよね」

「ああそうだよ」

博士のコルトパイソンが火を噴き、ヤマダの頭は吹っ飛んだ。
時は2218年。かつて水の惑星と謳われた地球の姿は変わり果てた。灼熱地獄の中で辛うじて生き延びる人類に過去の涼しい記憶は不必要であった。
博士のコルトパイソンが再び火を噴き今度は記録媒体を粉々にした。
こうして涼しいは人類の記憶からも抹殺された。

おしまい
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