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クリスマス救世主伝説 [トナカイ]

「ヌルヌルしてる!なんだよ!なんかヌルヌルしてるよ!」
サンタのおじさんがそう訴えても闘いが中断される事はなく続行された。そもそもレフェリーもいないルール無用のこの聖夜のデスマッチにその訴えはオーディエンスに向けてのアピールでしかなかった。根っからのショーマンのサンタのおじさんのパフォーマンスでもあるのだろう。

角をふん捕まえて力任せにねじ伏せれば持久戦は覚悟の上で楽勝とタカをくくっていたサンタのおじさんにとっては大誤算であった。それを見越していたトナカイは角に保湿性クリームをしこたまに塗り込んでいたのである。確かにトナカイからいつもの獣系の匂いだけではない甘い匂いがしていた事にサンタのおじさんは気付いていた。

「何事も自分が思い描いた通りには行かないものなのだなあと思うサンタであった。」と若山弦蔵氏のナレーションが頭の中に流れるほどサンタのおじさんは冷静であったが冷静であるほど今の状況では埒が明かない事は明確だった。
ボディに渾身のパンチを入れてもとにかく硬い。効いてる気がしない。トナカイの表情を見ても全く平然としている。
一回ヒラリと背中にまたがって脳天への打撃を試みてみるもののトナカイは頭部を巧みに動かしヌルヌルの角が邪魔をして脳天にまで届かない。
バックに回り込みモロ出しの急所への一撃が最善かと思考を巡らせるがそれこそがトナカイの思惑通りでトナカイの最大の攻撃である後ろ蹴りが飛んでくる事は十分過ぎるほど予測出来た。

サンタのおじさんとトナカイの睨み合いが長く続く。もはや思考戦の様相だった。お互いがお互いの出方を読み合い幾つものパターンのシュミレーションを繰り返していた。その睨み合いをオーディエンスは固唾を飲んで見守るしかなかった。

「南無三!」
意を決したサンタのおじさんは俊敏な動きでトナカイのサイドに回り後ろ脚の付け根に力の限りのパンチを入れる。そして続けざまにバックに回り込んだ。付け根への打撃はトナカイの後ろ蹴りを鈍らせる事が目的の一つでも有ったがその目論見は外れた。トナカイの鋭い後ろ蹴りがサンタのおじさんを貫く。
と誰もが思った瞬間サンタのおじさんはトナカイの後ろ蹴りをすんでのところ半身でかわしその勢いのまま仰向けの状態で倒れ込んだ。
トナカイの後ろ脚が宙を蹴り上げているのが見える。地面に倒れたサンタのおじさんはそのままトナカイの真下に体を素早く滑り込ませた。トナカイの心臓への一撃。それこそがサンタのおじさんの狙いであった。
「もらったぁ!」
サンタのおじさんのパンチがトナカイの心臓めがけてのめり込みそして更に奥深くへとねじ込む。

サンタのおじさんとトナカイの動きが止まった。続けて二発目三発目と入れるべきだったのかもしれないがここぞというところで一撃で仕留めるのがサンタのおじさんの流儀で有りその手応えを感じていた。
しかし、動きが止まりしばらくの間生気を失っていたトナカイの瞳が爛々と妖しく輝き出すと赤鼻から漏れだす鼻息も荒々しくなり口からはヨダレをだらだらと垂れ流す狂気の面持ちと変わり果てた。何かおどろおどろしい呪いの言葉のような抑揚のついた鳴き声が聞く者を身震いさせる。
ボコッ、ボコッと音を立てて筋肉は隆起しトナカイの体は何倍にも膨れ上がりその影でサンタのおじさんの周りが真っ暗になるほどだった。
サンタのおじさんが突いたのは心臓ではなく偶然にも禁断の経絡秘孔の一つであった。

しかし、恐ろしく変わり果てたトナカイの姿を目にしたサンタのおじさんに浮かぶ表情は恐怖より歓喜であった。
一夜で世界中を飛び回る気違い沙汰を成し遂げるのに必要なものそれは頑丈な肉体と常識を覆す狂気に他ならないとサンタのおじさんは考えていた。今そのものが目の前に現れたのだ。
「こんなに嬉しい事はない」
サンタのおじさんが目に涙をため見上げるトナカイは更に巨大化していた。感慨に耽っている場合ではない。まずは早急にそれを止める秘孔を突くことが先決とサンタのおじさんは思うのであった。


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赤鼻 レッド・シャイニー・ノーズ [トナカイ]

遂に私たちは光の速度を超えてしまった。
聖夜に、特別な一夜の限られた時間に78億の人々へ贈り物を届けたい。ただその想いだけで。

…ああ、光を超えてしまった世界とはこの様なものだったのか。
あれほどに溢れていた色彩は暗闇に染まり、常に流れ続けるものと信じて疑う事のなかった時の概念も存在しない。
そして私の体を構成していた血、骨、肉、それらの物体は分子レベルでの繋がりを失い全てが闇と同化し私という存在自体が消え去ろうとしていた。

私は今どこにいるのか、今とは何か。そして私とは何か。

ただひとつ光を超え色も時も私も何もかもが失われゆく中で確かに存在するものが有った。
それだけが暗闇に赤く光り輝いていた。

真っ赤なお鼻のトナカイさんは
いつもみんなの笑い者
でもその年のクリスマスの日
サンタのおじさんは言いました
暗い夜道はピカピカのお前の鼻が役に立つのさ
いつも泣いてたトナカイさんは
今宵こそはと喜びました



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2年3組冬菜海 ~代表選考会始まる~ [トナカイ]

「続いては日本ボブスレーに彗星の如く現れた高校生チームコメットボーイズの滑走です。いよいよですねー解説の山本さーん。」
「はいー、いよいよですねー。」
僕たちがチームを組んでボブスレーを始めて半年。遂にここまで来た。

「コメットボーイズ、ここまでは圧倒的な強さでしたがレースは走ってみなければ分からないのが実際の所。しかしこれまでの実力通りの滑走をする事が出来れば次期冬季オリンピックの代表に決定となります。どーですか山本さーん。」
「はいーどーうでしょうー、はいー。」
「…」
滑走前の緊張感は格別のものだ。いつもピースフルに和ませてくれる三太もこの場だけは高揚して目が血走っている。2組の斎藤と4組の小林も真剣な面持ちだ。
僕はドキドキとワクワクが止まらない。まるであの夜のあの時の様に…。

「先頭のパイロットは黒須君、そして斎藤君、小林君、そしてしんがりの冬菜君が乗り込みます。コメットボーイズ、これまでの一体感は素晴らしくコース上を飛ぶ様に駆け抜けて行きます。
さあー選手は位置に着きましたよー。山本さーん。」
「はいー着きましたねー、はいー。」
「…」
…あの夜?あの夜っていつの事だ?そんな覚えは無いはずなのに…は!なんだ?何か僕の中の別の記憶が呼び覚まされていくようだ………。

「さあ!コメットボーイズのスタート、テイクオフです!」
「はいーテークオフですー」
「…おおっとー!冬菜君が遅れているぞー、このまま乗り込めなければ失格になってしまうー!どうしたー!?コメットボーイズ!」

彼の名前は冬菜海。愛称トナカイ君。
彼、そして彼ら4人は何故ボブスレーというソリ競技に魅入られていくのか。
一年中の大半を雪に覆われるフィンランド北部、クロース地方。当然の様に雪上競技が盛んである。特にソリ競技に力が入れられており最早クロース地方における国技と言って差し支え無かった。その中でもトウナ村の選手の実力は抜きん出ていたが毎年12月の24、25日に行われる競技会には必ず欠場し、そしてそれ以降は何か全てをやり尽くしてしまった様に平凡な記録となってしまうのだった。
そんな遠い異国の事を冬菜海は今まで知らずにいたし、この事がボブスレーに魅入られていく理由である事も知らずにいた。が、しかし今、冬菜海の閉ざされていた記憶が甦られようとしていたのだった。
続、く、、のか?
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2年3組冬菜海 ~謎の男現る~ [トナカイ]

「さあいよいよ次は君の番だよトナカイ君」
いきなり現れたあいつは2組の斎藤と4組の小林をあっという間にのしちまった。ああ見えて共に柔道部では常にレギュラーの二人を。

「どうしたトナカイ君。すっかり怖じ気づいてしまったのかい?」
どうする?いつもならこういう時には何故か必ず三太の奴がいてこの場をピースフルに和ませてくれるのだが今ここに三太の姿はない。
自慢じゃないが逃げ足には自信がある。全速力で走っているとこのまま空だって飛べる気分になるほどさ。…だが。

「ほほう。その目は私と戦う気はお有りの様ですなあトナカイ君!」
ああそうさ。何故だか分からないがいつもの僕とは違うようだ。三太の奴がいないからなのか?今の僕はあいつと戦いたくてウズウズしている。
「トナカイ、トナカイって初対面の人に馴れ馴れしく呼んで欲しくはないな。それに僕の名前は冬菜海だ!」

彼の名前は冬菜海。そして彼の前に突如現れた謎の男。二人は今正に戦おうとしている。
何故二人は戦わなければならないのか。
フィンランド北部クロース地方。見渡す限りの大自然に囲まれたこの地方にもかつて侵略者との激しい争いがあった。
一時は圧倒的に不利な立場に立たされたものの、ある時トウナ村からやって来た二人の男、一人は華麗な鞭さばきで、一人は強力な後ろ回し蹴りで侵略者達を叩きのめし形勢を一気に逆転させた。と、クロース地方では代々語り継がれている。
そんな遠く離れた異国の事を冬菜海は知るはずもなく、そして謎の男と戦わずにはいられない理由がそこに有る事もまた知らずにいたのだった。
続、、、かない。
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2年3組冬菜海 [トナカイ]

僕の名前は冬菜海。お察しの通り学校でのあだ名はトナカイ。昔っからずっと。
この時期僕の周りでは赤鼻のトナカイの合唱が響き渡っている。休み時間の間はずっと。
と言って別にいじめられているわけではない。みんなが楽しいなら僕は構わないんだ。
でも時には僕にさるぐつわを噛ませてそのロープで自分の座っている椅子を引っ張らせようとするそんな乱暴者もいないわけでもない。
そんな時決まって助けてくれるのがあいつだ。
あいつの名前は黒須三太。なぜか物心ついた時から一緒につるんでいる。
助けてくれると言っても別に暴力的に解決するわけではなく。あいつがいると何故かその場がピースフルになってしまう。ただそれだけの事なんだ。
何故あいつがいると争い事が起きないのかその理由は分からない。時折あいつの周りに小さな妖精みたいなのが見える気がするのは多分気のせいだろう。
おっと、また赤鼻のトナカイの合唱がどこかから聞こえてきたぞ。あの声は2組の斎藤と4組の小林のお調子者コンビか。あいつらうるさいんだけどまあいいや。賑やかだしみんな笑ってるし。

彼の名前は冬菜海。そして親友の名前は黒須三太。
そんな名前の二人が不思議と同じ場所に居合わせるのは偶然だろうか。
フィンランド北部クロース地方にトウナという村がある。厳しい山道を丸3日かけなければ辿り着かない。それも運が良ければの話で、運が悪ければ一生辿り着けない。そのためトウナ村を訪れる人は皆無だという。しかし漏れ伝わってくる伝説めいた噂話によるとその村では人間たちとトナカイたちが長い間幸せに共存し、そしてあまりの仲睦まじさ故についにはトナカイが人間の姿に変身したのだという。
それと十七年前のある冬の夜トウナ村の方向から東の方角に向かって二つの発光体が物凄いスピードで飛び去って行った。という恐らく同一である目撃情報は各所に数多く寄せられている。
そんな日本から遠く離れた異国の地での事を冬菜海と黒須三太は知る由も無く、彼らが今ここにいる理由にも関わっている事もまだ知らずにいたのだった。
続、、、かない。
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メリーフクシマス [トナカイ]

元ジーエム「いやぁーすっかりトナカイに変態してしまったな。まさかこの時期にこういう事になるなんてなぁ。タイムリーな所は打点王5度その内三冠王3度に輝くさすがオレではあるけども。あ、うんこ出ちゃった。ま、しょうがない本能はトナカイだからな。もうさ、うんこしたいなーって思った時のうんこのうの字の時には全て出切っちゃてるからね。でもって罪悪感ゼロだからね。お、フクシお帰り。そこうんこ有るから気を付けて。なんだお前オレが毛むくじゃらになってツノが生えてきたらどっかにすっ飛んで行ったけど。どこ行ってたの?何その紙袋?え?ムチ?おいフクシ!やめなさい!やめなさいっての。そのムチでオレをしばいてどうしようっての。トナカイをムチ打つのなんてサンタのおじさんくら痛っ!フクシ!痛い!でもちょっぴり気持ちいい。動物虐待!他人様から見たら完全な動物虐痛っ!フクシ!痛い!でもやっぱりちょっぴり気持ちいい。それにお前オレ的には家庭内暴力も重なってくるよ。子から親への暴痛いっ!フクシ!痛い!でも気持ちいい。フクシ!痛い!気持ちいい!フクシ!痛い!気持ちいい!フクシ!痛気持ちいい!フクシーっ! Merry Christmaaaaas! 」

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赤鼻のトナカイ・イン・三田 [トナカイ]

男が目覚めたのはベッドの中。ぼんやりとした目で時計を見ると真夜中3時。起きるのには早過ぎる。
温かさがこもった布団から足を出すとひんやりとして気持ちいい。
まどろみの中それまで見ていた夢を思い出していた。

トナカイたちと一晩で世界を駆け巡り、やけに感傷的になってトナカイたちと共に宇宙に飛び出し、人喰いトナカイに食べられ、トナカイたちと一体化して地球によく似た星を壊滅状態に追い込んだ。
そんな夢だったが、なんだか現実に起こった事のようにも思える。
足が冷えてきて温かい布団の中に戻す。二度寝する時間はまだ有った。


その夢から男はやけに赤系の服を好むようになった。
沸き上がる食欲が抑えきれない。食べても食べてもなんでもおいしい。男の名前は三田。かつて「やせっぽちのミタ」と言われていた男の見る影はもうない。
紛らわしい話ではあるが三田は東京港区の三田に住んでいたため甥っ子姪っ子からは「三田のおじさん」と呼ばれていた事も付け加えておこう。
髭を伸ばすようになりその髭や髪の毛に白髪が目立ってきたがそれも気に入っている。顔の血色はツヤツヤで気が付くと自然に笑顔でいる自分にも気付いた。


三田は心の中にざわつきを感じている事にも気付いていた。何か、何事かを自分はしなければならない。だが、その何かが分からなかった。
そんな時に動画配信サイトで動物たちが走り回る映像を見るとなぜか心が安らぐのだったが、犬ぞりの映像を見た時は逆に今にも爆発しそうな衝動を感じ急いで画面を閉じた。
三田は長いひも状の物を目にした時にも同じ衝動を感じていた。ホームセンターでロープ売り場に立ち入ってしまった時には思わず失禁してしまったほどでそれ以来ロープ売り場には近付かないようにしている。


三田はハンドメイドでそりを作り上げた。SMグッズ通販サイトでムチを手に入れた。白いぼんぼりの付いた赤いナイトキャップを被り服装も上下を赤で揃えた。
問題が一つあった。犬、猫を手始めに様々な動物をそりにつないで走らせてみるがどうにもしっくりこない。
やはり夢の中のあの動物しかいない。三田は出会うトナカイに片っ端から声をかけてみるがトナカイたちにその気は無かった。
どうにか拝み倒してトナカイをそりにつなぐと三田は一気に高揚した。
ムチが快調にうなる。三田にはトナカイたちがどこをどの様にどんなタイミングでムチ打たれて欲しいかが手に取るように分かるのだ。
ピシッ! ブヒヒー!! ピシシッ! ブヒヒヒヒーン!!!
トナカイたちは恍惚の表情を浮かべ全力でそりを引っ張った。
これだ! これが自分の為すべき事だ。三田はその時はっきりと確信した。


決行は聖夜と決めた。意味など無い。ただその日こそがやるべき日なのだ。
だがしかしわずか一晩で世界を駆け巡れるのだろうか。常に付きまとう疑問を振り払うかの様に三田は雄叫びを上げそりを走らせ始めた。

冬の夜は暗く寒い。その中を猛スピードで駆け抜けるとなると明かりも欲しいし暖も欲しい。三田は走り出してからその事に気付いたが時は既に遅かった。
視界の無さに不安が募り、凍える寒さに震えあがった。
その時、三田の中でブヒヒン、ブヒヒン、ブヒヒヒヒンと声がし三田の鼻が赤く輝きだした。
その光で三田とトナカイたちが進む先は明るく照らされ赤外線で体の芯から暖まると自信を取り戻した。

三田が雄叫びを上げムチを振り、トナカイたちはそれに応えてそりを引っ張っる。
三田の鼻は真っ赤に光っていた。三田は自分の中に何か特別な存在がいる事を感じ取っていた。
ゴールはもうすぐそこだった。



真っ赤なお鼻のトナカイさんは

いつもみんなの笑い者

でもその年のクリスマスの日

サンタのおじさんは言いました

暗い夜道はピカピカの

お前の鼻が役に立つのさ

いつも泣いてたトナカイさんは

今宵こそはと喜びました
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赤鼻のトナカイ・ザ・ウォー [トナカイ]

真っ赤なお鼻のトナカイさんは

いつもみんなの笑い者

でもその年のクリスマスの日

サンタのおじさんは言いました

暗い夜道はピカピカの

お前の鼻が役に立つのさ

いつも泣いてたトナカイさんは

今宵こそはと喜びました


サンタのおじさんとトナカイたちは光の届かない深い宇宙の暗闇の中にいた。
物体が物体として存在できる速度を遥かに超えてしまったため、サンタのおじさんとトナカイたちは一つに溶け合い意識の集合体として宇宙にも溶け合っていた。
溶け合った中でトナカイたちは見て感じ共有した。サンタのおじさんの中にある深い心の闇を。

宇宙と一つになっていたサンタのおじさんとトナカイたちはある星の引力に導かれそれぞれを取り戻し、その星へと降り立った。
その星の環境は驚くほど地球と似ていた。若干の重力の重さが気になる所ではあったが普段の生活での支障は感じられなかった。

その星には季節の移り変わりもあり、朝晩に肌寒さが感じられる頃サンタのおじさんの表情に厳しさが見え隠れするのをトナカイたちは敏感に察していた。
次第に言葉にとげとげしさが現れ、トナカイたちを見る目にも凄味が増してきた。
トナカイたちは練習を始めた。もちろんこの星をサンタのおじさんと一晩で駆け巡るために。

練習を始めて改めて思い知らされたのはこの星の重力の重さだった。地球と較べて微差ではあるが一晩で駆け巡るとなるとその微差が積み重なり膨大なものとなってトナカイたちにのしかかる。
自分たちの力だけではどうにもならないと悲観したトナカイたちは戸惑い、サンタのおじさんは怒り狂った。
この星では無理だ。トナカイたちにその考えがよぎったがサンタのおじさんにその考えはこれっぽっちも無かった。

重力の重さはサンタのおじさんのムチにより大きな影響を及ぼしていた。
ペシッ、ペシッ。とまるで弱弱しい。トナカイたちのあきらめムードを高めるのに十分過ぎたがそれでもおじさんはムチを振り続ける。
やがて鬼の形相で滝のような汗を流し一心不乱に振り下ろしていたムチに変化が訪れる。
ビシッ! バシッ! ズバシッ!! ズズドバシーンッ!!!
ムチを振り下ろしていた巨木が木っ端微塵に砕け散りトナカイたちの目にも失われていた輝きが戻った。

そしてサンタのおじさんが独断でその星の聖夜と定めたその日はやってきた。
その夜は壮絶を極め、12頭いたトナカイたちは赤鼻のトナカイただ1頭を残すだけになっていた。
すでに足は止まっている。動かそうという意思はある。だがもう動かないのだ。
サンタのおじさんのムチもその時点で力無くまるでそよ風のように優しく肌を撫でるだけでそれがより一層の悲愴を感じさせる。

ブヒヒッ!
その時うなだれる赤鼻のトナカイの鼻が突如輝きを増し煌煌と光り輝いた。
ブヒヒヒヒーンッ!
真っ赤な光は赤鼻のトナカイと繋がれたままの11頭のトナカイたちの骸を包み込み、その光がサンタのおじさんの中へと入りおじさんの鼻が赤々と光りだした。

おじさんの体はみるみる膨れ上がり煌めく星星もその巨体に隠され濃いダークブルーだった夜空は完全な暗闇となった。
体内からは赤い液体が滲みおじさんの全身を深紅に染め上げると目からゴウゴウと燃え上がる炎が全身を覆った。
闇に燃える真っ赤な炎の中にそびえ立つ巨大な人影。その姿は、そう悪魔。悪魔と呼ぶのに相応しい姿だった。
紅蓮の炎を纏ったムチは一振りで山を薙ぎ払い、一撃で大地を裂いて奈落の谷を作り出した。
あらゆる生き物は逃げまどい、全てのものは燃やし尽くされ、海は枯れ果てた。
そして悪魔はおぞましい雄叫びを永遠に続く恐怖としてただそれだけを住人たちに残し忽然と消え去った。

平和そのものだったその星は一変した。
住人は悪魔に恐れおののきそれ以来その日を悪魔の日と定めるが、それを神と崇める者たちが現れ両者の言い分の違いは長く続く大きな争いへと発展した。

サンタのおじさんとトナカイたちをその日以来見た者はいない。

俺たちゃトナカイ、サンタのおじさんと心は一つ
俺たちゃトナカイ、サンタのおじさんと体も一つ
例えサタンと呼ばれたとしても
おじさんと共に駆け続ける
いつまでもどこまでも
例え争いを起こしたとしても
おじさんと共に生き続ける
いつまでもどこまでも
俺たちゃトナカイ、サンタのおじさんと心は一つ
俺たちゃトナカイ、サンタのおじさんと体も一つ
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人食いのトナカイ [トナカイ]

真っ赤なお鼻のトナカイさんは

いつもみんなの笑いもの

でもその年のクリスマスの日

サンタのおじさんは言いました

暗い夜道はピカピカの

おまえの鼻が役に立つのさ

いつも泣いてたトナカイさんは

今宵こそはと喜びマンイーター



そう、赤鼻のトナカイは世にも恐ろしいマンイーター、人食い動物だったのです。そうとは知らないサンタのおじさんはトナカイにうっかり食べられてしまいました。めでたしめでたしホーホーホー。

宇宙(コスモ)・赤鼻のトナカイ [トナカイ]

真っ赤なお鼻のトナカイさんは

いつもみんなの笑いもの

でもその年のクリスマスの日

サンタのおじさんは言いました

暗い夜道はピカピカの

おまえの鼻が役に立つのさ

いつも泣いてたトナカイさんは

今宵こそはと喜びました



赤鼻のトナカイにそう言ってくれたあの時のサンタのおじさんはもういなかった。

正確に言えばサンタの仕事に全ての情熱を捧げていたサンタのおじさんはもういなかった。

サンタのおじさんは気付いてしまったのだ。

「わしはもう必要とされていないんじゃないか…」と。



情熱を失ったサンタのおじさんはただのおじさんである。

正確に言えばただの太ったおじさんである。

サンタという事でその恰幅の良さを認められていたという事もある。

しかし今はただのおじさん。しかも太っている。が故に暑がりであり汗っかきである。が故にメガネが常にずり落ちてくる。



ちょっと動いただけで汗をかきメガネがずり落ちてくる。

いくら汗を拭いたところで状況が好転するはずはなかった。なぜなら拭いても拭いても汗が止まらないからだ。

ちょっと動く、汗をかく、メガネずり落ちる、汗を拭く、それでも汗をかく、メガネずり落ちる、汗を拭く、なおも汗をかく、メガネずり落ちる、…

この地獄のような無限ループをかつて世界中から愛されていたサンタのおじさんは日中の間繰り返し続けた。



トナカイたちはそんな姿を苦々しい思いで見つめていた。

聖夜までもう1か月を切っている。いつもなら厳しいトレーニングを積んでいる時期だ。

このままでいいはずもない。トナカイたちは自主トレを開始した。

しかしどうにも張り合いがない。サンタのおじさんのあの厳しい叱責、誰にも触れられたくない極私的な事にまでズカズカと踏み込み、情け容赦のない罵倒で心をズタズタに踏みにじるあの叱責がトナカイたちには必要だったのだ。



「俺たちゃトナカイ

ソリを引くのが仕事さ



どうしちまったんだよ、サンタのおじさんよぉ…」

トナカイたちの目に涙が溢れていた。



聖夜まであと1週間。サンタのおじさんの憂鬱は治まる気配はなかった。

これといって気晴らしになるものもなく、戯れにSNSなどをのぞいてみてもそこに垂れ流されるどす黒い人間の本性にあてられ余計に滅入るだけだった。

「この世界にわしは必要なのだろうか…」

サンタのおじさんの目にも涙が溢れていた。



ついに聖夜当日。昼を過ぎてもベッドから起き上がってこないサンタのおじさんに業を煮やした赤鼻のトナカイが寝室に押し入った。

ブヒヒ、ブヒヒと鼻息荒く詰め寄ってもおじさんは頑なに心を閉ざし虚ろな目で当てどのない虚空の一点を見つめるだけだった。

ブヒヒーン! 赤鼻はおじさんの首根っこを噛み寝室の外へ無理矢理連れ出すと、ある部屋へと向かった。



その部屋には無数のトナカイの写真が飾られていた。

サンタのおじさんの仕事を成し遂げるため命を捧げた多くのトナカイたちの写真だ。

気取り屋、生意気、おっかながり、お調子者におせっかい焼き、頑張り屋さんに泣き虫、怒りんぼう。喧嘩っ早いのもいれば、気立てのいいトナカイ、様々なトナカイたちがここにはいた。しかし、今はもういない。皆聖夜に命を落としたのだ。

ブヒヒヒ。そう言ってサンタのおじさんを残し赤鼻は部屋を後にした。



聖夜の仕事の準備は万端整っていた。残すはサンタのおじさんだけだった。

トナカイたちの吐く白い息だけが立ち上がる静寂の時間。しばらく続いたその静寂を打ち破ったのはもちろんサンタのおじさんだった。

「サンタ・イズ・バック!」トナカイから祝福の声が上がった。

しかしそんな歓迎ムードもお構いなしに姿を現すや否や耳にするのもおぞましい罵詈雑言、悪口雑言をトナカイたちに浴びせ続けた。

トナカイたちは委縮するどころか興奮を隠せず、口から鼻から更に白い息がもうもうと立ち上がった。



サンタのおじさんはこの時点で既にヒートアップしていた。次第に言葉は言葉にならず闇夜を切り裂く怪音波となっていた。
目は血走り、鬼の形相の顔面と服を脱ぎ去った上半身は真っ赤に火照り、滴る汗が蒸気となってサンタのおじさんの体を青白く包み込んでいた。

「出発進行!」恐らくそういう意味の怪音波を発しサンタのおじさんは鞭をふるった。鞭もこの時点で全力だ。

ドバシーンッ! ドバシーンッ! もはや芸術的テクニックとは言えない一撃一撃が致命傷級の破壊力を持った鞭がトナカイたちの肉をえぐり骨髄に衝撃を与えた。

「ピエーッ! ピキギギギーッ!」意味不明の怪音波の高まりとともに鞭の破壊力は増すばかり。ズドバシーンッ! ズズドバシーンッ!

このまま喰らい続けたら死んでしまう。危機感を持ったトナカイたちは巧みに受け流したが、そのスリルがトナカイたちをさらに興奮させスピードは一気に加速した。

トナカイ12頭による全速力は音速を超え、光の速度となり、地球を22周半したところで自分たちを引力から解き放った。



あの聖夜、皆さんが耳にした怪音波、そして御覧になった地上から飛び立っていった光。そう、それは彼らなのです。

今現在もサンタのおじさんと12頭のトナカイは宇宙を飛び続けています。

何百万年後、何億年後のいつの日か夜空に赤い流れ星が見えたら、それはトナカイのピカピカ光った真っ赤なお鼻なのかもしれません。



俺たちゃトナカイ

サンタのおじさんを乗せたソリを引く

どこまでもソリを引く ソリを引く


そうだ俺たちゃトナカイ

サンタのおじさんと一緒なら宇宙(コスモ)の果てまでも

そうさ いつまでもどこまでも いつまでもどこまでも

真説・赤鼻のトナカイ [トナカイ]

真っ赤なお鼻のトナカイさんは

いつもみんなの笑いもの

でもその年のクリスマスの日

サンタのおじさんは言いました

暗い夜道はピカピカの

おまえの鼻が役に立つのさ

いつも泣いてたトナカイさんは

今宵こそはと喜びました



しかしその労働は過酷を極めた。

何しろ一夜で世界中を飛び回るのである。

彼は先輩トナカイに最初に言われた言葉を思い出した。

「死の行進へようこそ・・・」。



その言葉に嘘偽りはなかった。

サンタのおじさんのソリは12頭のトナカイによって牽引される。

だが一度に12頭全員が駆動しているわけではない。

もしもその姿を目にする事が有ったならば確認してみるとよいだろう。

一度に駆動しているのは4頭だけである。4頭で1つののグループを形成し、それが3つのグループに分かれている。

1つのグループが駆動している間は他の2つのグループは休息を取る。

3交代制ならば何も死に至るほどではあるまい。と考えられるがそうはいかない。

その行進の先には死が待っている。だからこそ死の行進と呼ばれるのだ。



サンタのおじさんは普段はたいそう穏やかな性格である。

ぷっくりとした体をデッキチェアに預け、健康的な赤ら顔でパイプをくゆらす。そんな日々を過ごしている。

しかし聖夜まで残り1か月となった時、その表情は一変する。

笑顔を見せる事は無くなり、トナカイたちに容赦のない叱責を浴びせかける。

彼はサンタのおじさんのその豹変ぶりに最初は驚いたが、おじさんのそれは仕事への責任感から来るものである。と先輩トナカイから教わり納得した。

とは言えサンタのおじさんの叱責は凄まじい。トナカイたちのプライドをズタズタにし、ほぼ毎日心が挫けそうになる。

そんな時トナカイたちはこの歌を歌う。



俺たちゃトナカイ

ソリを引くのが仕事さ

引け引けソリを引け


そうさ俺たちゃトナカイ

ソリを引く事だけが生きがいさ

引くんだ引くんだソリをひたすらに



一般的にサンタのおじさんが鞭の名手である事はあまり知られていない。

そのテクニックはもはや芸術的ですらある。

一振りで駆動している4頭すべてに鞭打ち、尚且つ4頭それぞれに強弱をつける事が出来る。

そのテクニックはトナカイたちに言わせれば「これこそが聖夜の奇跡!」という事だった。

トナカイたちはそのテクニックに魅了される。いや虜になると言った方がこの場合適切であろう。

だからこそトナカイたちは走るのだ。サンタのおじさんに鞭打たれたくて走るのだ。



死の行進の死とは何も形容的な意味ではない。正に死そのものである。

一夜にして世界中を飛び回る。どだい無理な話なのだ。

その無理を押し通すためには犠牲が必要となり、その犠牲を強いられるのがトナカイたちだ。

無理を押し通した結果、トナカイたちは次々と息絶えてゆく。

息絶えたトナカイたちへのサンタのおじさんの扱いは非情である。容赦なく切り離され地上へと落下する。

12月25日の早朝、世界各地でトナカイの落下死体が発見されるのはそのためだ。



サンタのおじさんのソリを牽引するには4頭のトナカイの駆動力が必要となる。

当初は12頭のトナカイが4頭ずつ3つのグループに分かれ3交代制で牽引するが、1頭のトナカイが息絶えれば他のグループから補充される。

それを繰り返せば次第に頭数が減り2交代制になり、最終的にはギリギリ4頭で最後まで走り通さなければならなくなる。

その頃のトナカイたちの体力は限界をとうに通り越している。後は気力のみだ。

気力を振り絞らせるためサンタのおじさんの鞭がうなる。

鬼神。鞭をうならせるサンタのおじさんのその様は鬼神の如くであった。上半身裸になりソリに仁王立ちし、天を切り裂く雄叫びをあげ休む間もなく鞭を振り下ろす。
鞭打たれたトナカイたちの鮮血がシャワーとなってサンタのおじさんの全身を真っ赤に染め上げる。
鬼神。その時サンタのおじさんは鬼神そのものとなる。



聖夜が明けようとしている。

今年もまたサンタのおじさんの仕事は成し遂げられようとしていた。

残った4頭のトナカイの中に彼はいた。息は絶え絶えだったが最後に残った僅かな気力だけで足を動かしていた。

しかし、気分は晴れやかだった。落ちて行った8頭の仲間たちへの哀悼の意を感じつつも、この難事を成し遂げられた達成感と充足感が彼を温かく包み込んでいた。

サンタのおじさんにもようやく笑顔が戻り、3頭の仲間たちにも晴れやかで誇らしげな表情が見てとれる。

聖夜が白々と明け始めた。

冬の眩しいほどの朝陽が彼たちを迎え入れようとしていた。



俺たちゃトナカイ

サンタのおじさんに鞭を打たれてソリを引く

鞭を求めてソリを引くソリを引く


そうだ俺たちゃトナカイ

俺たちの血でサンタのおじさんを真っ赤に染め上げる

赤く染め上げる赤く赤く染め上げる
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